長い歯列矯正の末、ついにブラケットが外れた日。その解放感と達成感は、経験した者にしか分からない、特別なものです。鏡に映る、美しく整った自分の歯並びを見て、「これで全てが終わった!」と、心から安堵するでしょう。しかし、その安堵感こそが、悲劇の始まりとなる可能性があるのです。歯列矯正の本当のゴールは、装置が外れた日ではありません。その美しい歯並びを、生涯にわたって維持し続けること。そのために不可欠なのが、「保定装置(リテーナー)」の装着です。残念ながら、このリテーナーの重要性を軽視し、装着をサボってしまった結果、数年かけて手に入れた理想の歯並びを、自らの手で台無しにしてしまう人が後を絶ちません。なぜ、リテーナーをつけないと歯は動いてしまうのでしょうか。矯正治療後の歯は、まだ新しい位置に完全に定着しておらず、周囲の骨も固まっていません。また、歯の周りには歯根膜という弾力性のある繊維があり、常に元の位置に戻ろうとする力が働いています。これを「後戻り」と呼びます。リテーナーは、この後戻りをしようとする力に抵抗し、歯が新しい位置で安定するのを助けるための、いわば「ギプス」のような役割を果たすのです。リテーナーの装着を怠ると、後戻りは、あなたが気づかないうちに、静かに、そしてゆっくりと始まります。最初は、ほんのわずかな変化かもしれません。「少し隙間が空いてきたかな?」「気のせいかな?」と感じる程度です。しかし、その小さな変化を放置すると、数ヶ月後、数年後には、明らかに歯が動いているのが分かるようになります。そして、久しぶりにリテーナーをはめてみようとすると、きつくて入らない、あるいは全く入らない、という事態に直面するのです。その時になって後悔しても、時すでに遅し。崩れてしまった歯並びを元に戻すためには、「再治療」という選択肢しか残されていません。再び高額な費用と長い時間をかけて、矯正治療をやり直さなければならないのです。あの痛み、あの不自由な生活を、もう一度繰り返したいですか?リテーナーの装着は、確かに面倒かもしれません。しかし、その少しの手間を惜しんだ代償は、あまりにも大きいのです。
矯正終了はゴールじゃない!リテーナー放置が招く悲劇