娘の歯並びに違和感を覚え始めたのは、彼女が小学校1年生の時でした。下の前歯が、重なり合うようにして生えてきたのです。最初は「そのうちきれいに並ぶかな」と楽観視していましたが、歯磨きの際に汚れが取りにくいのが気になり、近所のママ友に勧められて、矯正歯科の無料相談に行ってみることにしました。レントゲンや歯の型取りといった精密検査の結果、先生から告げられたのは、「娘さんは、顎の大きさが小さく、このままでは永久歯が並ぶスペースが明らかに足りません。今から顎を広げる治療(第1期治療)を始めましょう」という言葉でした。娘が使うことになったのは、「拡大床(かくだいしょう)」という、取り外し可能な装置です。真ん中にネジがついていて、それを週に1〜2回、保護者が専用のキーで回すことで、少しずつ装置が広がり、それに合わせて上顎の骨も広がっていく、という仕組みでした。最初の数日間は、口の中に大きな異物が入ることに慣れず、娘は「しゃべりにくい」「気持ち悪い」と、よく泣いていました。食事の時も、外してはめてを繰り返すのが面倒で、親子でイライラしてしまうことも。特に大変だったのは、学校での給食の時間です。自分で外して、ケースにしまい、食後にまた自分でつける。7歳の子供にとっては、なかなかの難題でした。紛失しないように、ケースに派手なキーホルダーをつけたり、先生に連絡帳で協力をお願いしたりと、私も必死でした。しかし、人間の適応能力は素晴らしいもので、1ヶ月も経つ頃には、娘はすっかり拡大床の扱いに慣れ、日常生活の一部として受け入れられるようになりました。そして、治療開始から約1年後。あれだけ重なっていた下の前歯の間に、少しずつ隙間が生まれているのを見た時、私は心から「あの時、勇気を出して始めてよかった」と思いました。大変なことも多いけれど、この治療が、将来の娘の美しい笑顔と健康な歯を守るための、大切な土台になっている。そう思うと、毎晩ネジを回す作業も、愛おしい日課に感じられるのでした。